エッセイ:牛丼
今朝がた、妻が実家に帰省したので少しの間自由の身になった。不思議なもので、好きあって結婚して一緒に暮らしているのに、こうやってたまに1人になると学生時代に戻ったようで少しワクワクしてしまう。
そんな日は決まって、朝食を外でとる。少しハメを外したいのだ。朝に外食するくらいでと思われるかもしれないが、結婚していると1人で朝に外食する機会なんてほとんど無いのだ。
そういう訳で、今朝はすき家に行ってきた。特に食べたいメニューが決まっていたわけでもない。ただなんとなく、である。朝から牛丼屋なんて、男子大学生みたいでちょっと懐かしい気持ちになる。あのころはとにかくボリュームのあるものが好きだった。今ではお粥が好きなアラサーである。
さて、何にしようか。せっかくだから朝の定食にしようか。でも普通の牛丼メニューも魅力的だ。いつも食い物だけはすぐに決まる私だが、今日は珍しく迷う。まるで親と外食にきた子どものようである。
ん、ネギキムチ牛丼なんてあったか。ちょっと変わったかな。以前は普通のキムチだったような気がするが。他の牛丼屋と差別化を図ったのだろうか。今回はこれにしてみよう。いい年こいて新しいものに惹かれてしまう。
いい年こいてるので、朝から大盛りにはしなかった。偉いぞ、自分。あのころのように食べると胃もたれしてしまう。昔は大盛り2杯食っても全然平気だったのにな。
とか考えているうちに運ばれてくる。牛丼が、たっぷりのキムチで真っ赤に染まっている。では、いただきます...。辛い...。いや、辛口とかのカライじゃなくて、生のタマネギ的な辛さというか、そういう辛さが凄い。
あと、クセもすごい。キムチの風味とあいまって、牛肉の味を見事に殺している。もともと個性の強いキムチという食べ物に、なぜネギなどというこれまた個性の強いものを入れたのか。食材が大喧嘩している。それに巻き込まれて、私の口の中が大惨事である。
これはちょっと失敗だったかな。決してマズいわけではないが、旨いわけでもない。少なくとも、次回注文するときは選択肢から外れているであろう。口の中がピリピリする。あ、好きだった人、ごめんなさい。
水をおかわりしつつ完食する。とにかく口が臭い。まあ今日は妻もいないし気にしなくていいか。帰ろう。
猫が家で待ちわびていた。待たせてごめんよ、お前も朝ごはんにしような。あと今日のおとーちゃんはめっちゃ口臭いよ、合わせてごめんな。
物音のしない静かな休日の朝。俺の一人暮らしはこれから始まる。でも、ネギキムチの文句を言い合う相手が居なくて、ちょっぴり寂しい。ほんのちょっぴりだけどね、ほんとに。